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部下の体調を心配した管理職が、本人を思いやって就業時間中に無理やり帰宅させました。
当社は半休の制度がなく、その日の全てを休んだわけではないので、年休にすることもできません。
部下本人は、“気持ちはありがたいが、上司が言うので、働けると思ったがやむなく帰宅した“という部分があるようです。
当社の就業規則では、早退(控除)するほかなさそうですが、この場合、本人が希望すれば、年次有給休暇として扱っても問題はないでしょうか。


このようなケースは、「使用者の責に帰すべき休業」に該当し、休業手当の支払が必要となる可能性があります。
なお、本人の希望があり、使用者が同意を与えた場合には、半日単位の年次有給休暇を付与することも可能です。

解説

1.早退と休業手当

労基法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定めています。

この休業手当は、全部休業の場合だけでなく、一部休業の場合であっても支払わなければならない場合があります。

行政通達においては、「1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責に帰すべき事由による休業がなされた場合にも、その日について平均賃金の100分の60に相当する金額を支払わなければならないから、現実に就労した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の100分の60に満たない場合には、その差額を支払わなければならない。」とされています(昭和27.8.7 基収3445)。

これに基づき、時間給が1000円、1日の所定労働時間8時間、1カ月の所定労働日数が22日、過去3カ月の暦日数を92日と仮定した場合の計算を行ってみます。
この例における平均賃金は、1000円×8時間×66日÷92日≒5739円13銭となります。平均賃金の計算においては、「銭未満の端数を生じたる時はこれを切り捨て、各種補償等においては右に所定日数を乗じてその総額を算出」することとなっています。(昭22.11.5 基発232)

したがって、この場合の休業手当の金額は、5739円13銭×0.6≒3443円となります。
仮に、一部休業の(早退時間を控除した)結果、その日の賃金が3,443円を下回る場合にはその差額を支給する必要がありますが、3,443円を上回る場合には、休業手当の支払は必要ありません。

2.使用者の責に帰すべき事由

労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、民法第536条にいう「債権者の責に帰すべき事由」、すなわち、債権者の故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由よりも広く、民法上は使用者の帰責事由とはならない経営上の障害なども含まれるとされています。
一方、不可抗力によるものは含まれないとされていますが、ときにその判断が難しいケースがあります。

使用者の責に帰すべき事由とならないものとしては、天災事変によるものや一部ストライキにより他の労働者を休業させた場合などがあります。

3.本件の場合

本件の場合、ご本人が体調不良であったという原因はあるものの、上司が思いやって無理やり早退させたとのことです。
この場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するものと考えられ、前述のとおり、当該日に支払われる賃金が平均賃金の100分の60に満たない場合には、その差額を支給する必要があります。

なお、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第18条に基づく就業制限や労働安全衛生法第66条に基づく就業禁止の場合には、使用者の責に帰すべき事由とはなりません。
また、年次有給休暇は一労働日を単位とするもので、この労働日とは、原則として暦日計算によるものとされています。

但し、半日単位での年次有給休暇については、行政通達において「年次有給休暇の付与は1日単位が原則である。会社は半日単位で請求された場合に応じる義務はない。ただし、労使が合意の上で半日単位で付与することは差し支えない。」(昭和63.3.14基発150)とされています。
したがって、本人が希望し、会社が合意すれば半日単位での年次有給休暇を与えることも可能です

4.今後望まれる対応

今回のようなケースは、日常の労務管理においても時折見られるケースであろうと思われます。
今後の対応として、会社としてもしっかりとしたルールを構築しておきたいものです。

例えば、就業規則において、年次有給休暇の半日取得や時間単位での付与などを規定することも考えられます。

半日単位での年休については、就業規則において「年次有給休暇は、原則として1日単位とするが、社員からの請求があり、会社が認めた場合には半日単位での年次有給休暇を認める場合がある。」というような規定を設けることが考えられます。
この場合、半日の定義を午前・午後とするのか、所定労働時間を按分して時刻を定めるのかについては、自社の判断により決定して下さい。

時間単位での年次有給休暇については、平成22年4月1日改正施行された労基法により、「労使協定の締結」を条件として、5日以内に限り付与が可能とされました。
労使協定で定める事項としては、①時間単位年休の対象労働者の範囲、②時間単位年休の日数(5日以内の範囲で定める、前年度から繰越しがある場合には、繰越分を含めて5日以内で定める)、③時間単位年休1日の時間数、④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数とされています。

なお、行政通達では、「労使協定の締結によって時間単位の年次有給休暇を実施する場合には、「休暇」として時間単位の年次有給休暇に関する事項を就業規則に記載する必要があること。」(平成21.5.29基発0529001)とされていますので、労使協定を締結するだけでなく、就業規則に記載すべきことにも注意が必要です。

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